電機オタク青年 〜シンガ・タイ旅行〜
モスクワの宿で朝食をとっていると前の席にかわいい女の子が座っていた。粟色の目に美しい黒髪。高校生くらい。しばらく見つめていると、ふとした瞬間に目があった。なんてきれいな人なんだろう。数日後に偶然、廊下で一緒になった。名前はアン・マリー。思わず住所を聞く。スウェーデン人だという。
何週間かしてストックホルムに立ち寄ったとき、私は迷わず電話した。ぜひいらしてと招かれ、実家にお邪魔する。夕食をごちそうになった。旅にも疲れ始めていた頃で、家族の温かいもてなしは心に沁みた。夜も遅くなって帰ろうとしたが「そんな、泊まっていって」とお母さん。ありがたい言葉だった。
だがおかしい。案内されたのはアン・マリーの部屋だった。ベッドには枕が2つ並んでいて、しばらくするとシャワーを終えた彼女が入ってきた。アン・マリーは電気を消すと、私の隣に体を滑り込ませてくる。キスをして見つめ合うと、彼女はおもむろにベッドサイドの棚からコンドームを取り出したーー。
という話がちょうど読んでいたロバート・ハリスの『エクザイルス』という本に出てきて、少し期待するも、私がバンコクの宿で出会うのはシアトル出身の電機オタク青年なのだった。液晶テレビにおける韓国勢の躍進には目を見張るものがある、とか、そんな、ワクワクのかけらもない話で夜は更けていく。
by photo-by-kohei
| 2012-07-28 08:53
| Thailand