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親切なトルコ人 〜2日目・サフランボルへと向かう〜


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2011.01.31
@Istanbul and Safranbolu
「トルコ・ギリシア旅行」No.02
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 部屋を出る。とりあえずスルタンアフメット駅近くのインフォメーションセンターを目指す。やはり夜遅く到着したときとは町の雰囲気が違う。まわりは観光客だらけ。あちこちで「コリア?」「アンニョンハセヨ」などと声をかけられる。やめてくれよ、と思う。
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 韓国人に間違えられるのが嫌なのか、ただ単に間違われるのがイヤなのか。どちらなのかはわからない。「自分は国籍で人を差別したりはしない」。誰でもそう考えているはずだ。けれどこういうときには、自分が本当にフェアでいられているのかわからなくなる。

 それにしてもまわりは怪しげなガイド風の男が多い。ブルーモスクの前では、パープルのダウンジャケットを着た日本人の男が、日本語を話すヒゲのトルコ人男性と話していた。友達という感じではなかった。きっとガイドを雇ったのだろう。

 この感覚はモロッコのタンジェを訪れたときと似ている。観光客の周りに怪しげなガイド風の男たちがいて、どんどん声をかけてくる感じだ。誰を信じていいのかわからない。けれど誰かを頼らずにはいられない。そんな感じである。

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 インフォメーションセンターは殺風景で、期待したようなパンフレットはほとんどなかった。いったん外に出て、ベンチで『地球の歩き方』を開く。カッパドキアに行きたい気持ちは大きかった。しかしどう考えても日程が合わない。代わりにどこかに行こう。しかし何処へ?

 ページをめくっていると、サフランボルという町の特集ページにたどりついた。バスで7時間ほどのところにあり、町全体が世界遺産に登録されているらしい。バスが出るのは12時とのことである。さて間に合うか。インフォメーションセンターに戻り、行き方を尋ねた。ハレム・オトガルに行くといいらしい。オトガルとはトルコ語で長距離バスのターミナルのことだ。

 まずはトラムでシルケジ駅に向かった。フェリー乗り場があって、そこからハレム・オトガルに行けるとのことである。シルケジに着くとボスフォラス海峡が見えた。おお、と思わずつぶやく。

 そうだった。そもそも私はボスフォラス海峡が見たくてイスタンブルに来たのだった。池袋の西武百貨店に無印良品の店舗がある。2階分のフロアを使ったかなり大型の店舗だ。店内にはエスカレータがあって、1階と2階にまたがる壁に、写真が大きく印刷されている。イスタンブルの写真である。

 フェリー船内の写真だ。席にはヴェールをかぶった女性が座っている。窓の外に見えるのは並行して進むフェリー。船体には「ISTANBUL」と刻まれている。背景には、ボスフォラスを挟んで街が向かい合っている様子が見える。そのあいだをフェリーが行き来している。そんな光景を、自分の目で見てみたかったのである。西武池袋店の無印jの壁じゃなくてね。

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 フェリー乗り場で1.75リラのチケットを買う。そのまんま乗り込んだ。車もそのまま乗り入れることのできる、かなり大型のフェリーだ。まわりでかなりの数のカモメが飛んでいた。きっとエサをやる人がいるんだ。すかさず写真を撮るが、なかなかうまくはいかない。50mmのレンズにはマニュアルフォーカスしかない。
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 ハレムのオトガルは客引きの声でにぎやかだった。中年くらいのおじさんが、オペラ歌手顔負けの声量で「アンカラ、アンカラ!」と叫んでいた。ただし私が向かうのはアンカラではない。残念ながら。しつこいようだけれど、本当はカッパドキアに行きたかった。けれど今回は無理なのだ。とりあえず客引きおじさんのひとりに声をかけてみた。

 案内された代理店ではしかし、12時の便はすべて満席であると言われた。次に空いてるのは夜の0時45分、とのことである。それじゃだめだ。そこでまた別の代理店に入る。すると今度は13時の便があると教えてくれた。METRO社の運航するバスである。ここではクレジットカードが使えた。片道で35リラ。だいたい2000円弱といったところだ。


 ハレムのオトガルには12時半にシャトルバスが来るということだったが、12時10分過ぎのシャトルバスにもう乗ってしまう。15分ほどバスに揺られると、ドゥドゥルーと書かれたまた別のオトガルにたどり着いた。ここを13時に出発する。バスの前面に行き先と便名が書いてあるので、バスを発見するのはそんなに難しくない。

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 バスはほぼ満員だった。窓の外に目をやると、どの町にも必ずミナレットがそびえ立っていることに気付く。トルコにきた、という感じがする。町全体が赤っぽい屋根で統一されている。雰囲気としてはスペインのクエンカにも似ている。

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 海外での一人旅は、やはりなんというか、ひとを真っ裸というか、何もまとわないまっさらな状態にさせる。私は暇だからと思い、大学1年からのことを順に思い出してみようと考えた。しかしいろいろと頭が疲れてしまった。

 働く意味とか、生きる意味みたいなことにも思いを巡らす。例えば旅行代理店なんてそうだよ。旅行にいったい何の意味がある? 旅行なんて誰もしなくたって世界は成り立つ。じゃあそのための商売って一体なんなのか。

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 バスでは、大柄な男が隣に座った。背丈だけでなくて、横幅も広い。熊のような男だ。柔道をやっていると言われても納得するだろう。最初はあまり話さなかったのだが、バスが止まったとき「ここで30分休憩だよ」と、英語で教えてくれた。

 名前はイエシンという。たしか。現在23歳で、カルビクにある大学に通う学生である。専攻はロシア語。だが外国語を全般に学ぶらしく、それで英語ができる。笑顔がとても優しい。体格がいいから頼りがいがある。けれど車内では映画「カンフーパンダ」を観ていた。

 そう、映画が観れるのである。トルコのバスの車内サービスは驚くほど充実していた。ケーキやジュース、コーラやスプライトなどのソフトドリンクが出てきた。まるで飛行機みたいだ。頭上に目をやると、電気ボタンや送風口の他に、コーヒーマークのついたスイッチがあった。点灯させると、ボーイのお兄さんが来てくれる。そして飲み物をくれる。
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 イエシンは2年前まで、サフランボルの観光窓口でアルバイトで働いていたのだという。日本人観光客も多いので、日本語を勉強したこともある。だが文字が4000も5000もあると知って、諦めたとのことである。とはいえ「four tonesも難しかったから」とも言っていた。これはきっと「四声」のことだろう。もしかしたら中国語とごっちゃになっているのかもしれない。

 バスは「カルビク行き」と表示されていたが、実はカルビクのあとにサフランボルに着くという行程だったらしい。イエシンは先に降りていった。握手をした。「サフランボルのオトガルについたらシャトルバスに乗るんだ、旧市街に行ける」。最後まで心強かった。ありがとうございました。

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 バスは10分もしないうちにサフランボルに着いたが、降りると、バスの外に立っていた人にいきなり呼び止められた。まわりの人もその場で待つようだ。しょうがないから従う。すると「METRO」と書かれたワゴン車がやってきた。ガイドブックにはオトガルから市の中心部までは0.90リラと書いてあった気がしたけれど、乗客は運賃を払わずに次々と車に乗り込んでゆく。私も乗る。もちろん運賃は払わない。

 ところがおろされた場所が何処なのか、地図を見てもわからないのである。近くにあったMETRO社の事務所に入ってみたが、インフォメーションは道路の向い側だ、と一蹴された。さてどうしたものか。外をウロウロしていると、ヒゲ面の男(トルコ人の男は大抵ヒゲ面である)が声をかけてくれた。サフランボルならあっちだよ。それでも私が戸惑った顔をしていると、それならついてこい、と言う。そういう仕草をする。
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 ここでわかったのだが、シャトルバスでおろされた場所は旧市街ではなく新市街だったのである。シャトルバスは、乗客をオトガルから新市街へ運んだ。ガイドブックに書いてあった0.90リラのバスは新市街と旧市街の間を走るバスのことだったのである。

 男はバス停まで連れて行ってくれた。そしてそこでバスを待っていた青年になにやら言付けをする。「こいつはサフランボルの旧市街にまで行きたいらしいから、教えてやれ」。たぶんそんなことを言ったのだろう。青年は手招きをしながら、私に向かってウインクをした。

 なんて優しいんだろう。ここまで連れてきた男は、歩きながら「ホテルは決まってるのか」とか「泊まるなら『ボスタンジュ』がオススメだぞ」とか、そんなことを言ってきた。てっきりお金をとられるのかとビクビクしていた。だがそんなことはなかった。

 昨日の空港のおじさんもそうだが、トルコ人はとても親切なようだ。世話好きというか。不思議なものである。けれどまあそのなかには悪質な人もいるはずで、見極めるのが難しい。

* * *

 雪が降っていた。しかもハラハラ舞う粉雪、という感じでステキだ。男に教えてもらった「ボスタンジュ」という宿も見つけられた。あとからわかったのだけれど、ここの宿は『地球の歩き方』にも載っていた。これで安心である。食堂のほうからオバサンが出てきて、部屋へと案内してくれた。20リラ、と言われる。部屋にはドイツ人の女の子がいた。
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 ドイツ人の女の子はカトリーナと言った。カトリーナも部屋についたばかりだという。私たちは共に夕食を食べることにした。宿のおばさんは「ここでも夕食を出すから。ここで食べていきなさい」と盛んに勧めたが、カトリーナは既に他の食堂で「また来るね」と約束したのだとかで、外に出ることにした。

 カトリーナは28歳で、現在2回目の大学生活を送っているとのことである。トルコ語専攻。ドイツの大学から5ヶ月前、交換留学生としてイスタンブルにやってきたのだそうだ。そろそろ留学期間が終るので、ひとり旅をしているところである。美人だが、気取った感じはしない。ごく個人的な印象でいうと、ドイツ人の女の子はたとえ美人でもエバった感じがしない。これがアメリカ人やイタリア人だとダメである。フランス人になると金でもとられそうだ。

 出身がブッパタールだというので驚いた。というか、驚いたのはカトリーナのほうだっただろう。ブッパタールはケルンの近くにある田舎の街だ。観光客が行くような街ではない。だが私は2年前、足を運んだことがあった。ブッパタール大学に留学していた先輩を訪れたのだった。だからまあ、驚くよな。私だって、異国の地で「盛岡に来たことがある」なんていう外国人に会ったらびっくりする。
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 わたしたちは言語について話をした。例えば日本語には沢山の「 I (アイ、一人称)」があるんだよ、という話をした。「僕」も「俺」もある。「私」もある。みんなそれぞれを使い分けてるんだ。「特に『私』はトリッキーで、普通は女の子が使うんだけれど、フォーマルな場面では男も使うんだ」。私はそう言った。カトリーナは驚いていた。食べ終わってから小さな商店に寄る。ビールなどを買う。ビールは外では飲んでは行けないよ、といわれ、あ、そうか、ここはイスラムの国か、と思い出した。

 宿に戻ると、宿の息子さんとその友達、それからサフランボルの楽器職人(と自分では言っていた)がギターのような楽器を弾いていた。とても上手い。

 私が一旦部屋に戻ってウトウトしていたら、日本人の男性が部屋に入ってきた。ヨシさん、という名前だった。広島・尾道の出身で、27歳。ウェイターの仕事をやめてスペインに始まる2か月の欧州旅行をしている。すごく面白い、というか、変な人だった。なにごとにも臆せず、誰にでもどんどん話しかける。勢いあまって日本語で話したりするのだが、それでも場の空気がぱっと明るくなる。
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 ヨシさんはオリンパスのPENを持っていて、これまでの旅行の写真を見せてもらった。ボスニアの写真やクロアチアの写真が沢山あった。私はドブロブニクをドブブロニクと言い間違え、恥をかいた。ヨシさんは豪快に笑った。
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 タバコを吸うグループに連れられ外に出た。吐く息が白い。さっきよりさらに寒くなっている。どこまでがタバコの煙で、どこからが息の白さなんだろう? 私はそんなことを考えた。こんなときだけは、タバコを吸うのも悪くないのかなと思ったりしてしまう。
by photo-by-kohei | 2011-02-15 12:35 | Turkey


デジタル一眼初心者が、四苦八苦しながら写真を撮ります


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